異類婚姻譚/本谷有希子(2016)
のっけから掴まれてしまった。
夫婦で顔が似てくるというのは、よく用いられる比喩だが、本当に似てきてしまうとしたら少し寓話的で、ちょっとしたホラーでもある。
同調していくことは心地がいいが、同化するのはなんとなく怖い。
気持ち悪いと思っているのか、そうなっていいのか疑問に思っているのか、あきらめているのか。主人公の心がうつろうと同時に、物語の現実感もうつろう。
読者は、ファンタジーなのか、主人公の認知の歪みなのか、判別がつかない。
回収されない伏線というのも、最近多用されている気がしてやや食傷気味なのだが、本作品でも非常に効果的であった。
面白かったー!
ファーナス 訣別の朝 / Out of the Furnace (2013)
救いがないが、妙な清々しさもある映画だった。IMDbではメッセージ性がわからないといった感じでプロットが叩かれているが、割と好きな類の映画。
アメリカの貧困はなかなかのものだなと、実体験が無いから分からないが、こういう映画を見るたびに思う。8 mile なんかを見たときにも感じた展望のない閉塞的な貧困。そんな環境で、前向きに生きていけるということは、それだけで偉大な人格だ。
地理的なイメージが分からなかったが、途中でニュージャージーに行くシーンでようやく東部の話だと分かった。アパラチア山脈部に、ああいう文化圏があることは知らなかった。
wikipediaなんかのあらすじはネタバレが著しいので、見ない方が良いだろう。
エンバンメイズ 1〜3巻 (2014〜2015)
負けると死ぬゲーム。というのはいつからやっているのか。
遊戯王なんかも最初はそのノリだったけれど、ハードにやり始めたのは嘘喰いあたりだろうか。ファラリスの雄牛のエピソードには心底怯えた。カイジも途中からは完全にそんな感じだったなあ。
「GANTZ」、「エニグマ」、「神様の言うとおり」、「ダンガンロンパ」あたりの理不尽世界系は、否応なく死のゲームに巻き込まれるので少しニュアンスは違うか。「バトルロワイアル」も含めるか。映画だと「Cube」や「Maze Runner」あたり。小説もたくさんあるだろうが、今思い浮かぶのは「クリムゾンの迷宮」だけ。あれは面白かったなあ。。
エンバンメイズも、「負けると死ぬダーツ」の話と説明して、間違っていないと思う。
(同時に、サブエピソードでは巻き込まれ理不尽世界系要素もキッチリ取り込んでいて、隙がない。)
確実に満点を取ってしまうプレイヤー同士、しかも、心も動じないプレイヤー同士が、特殊ルールで化かし合うわけだが、どこまでネタが保つのかは不明。今のところ、嘘喰いのスピンアウトくらいの出来では進行している。続きが楽しみ。
弱点は可愛い女の子を描くのが苦手っぽいところか。(悪いオッサンのニヤニヤした表情は超絶上手い)
コードネーム U.N.C.L.E. / The Man from U.N.C.L.E.(2015)
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ナポレオン・ソロの物語は知らなかったが、
マイ・インターン / The Intern (2015)
面白かった。
優秀な人材であることについて、時代を超えた普遍性があるとしたら、きっとそれは豊かな人格に根ざすものだろう、といったメッセージを感じた。
Too observant.(めざとすぎる)
という表現が、的確すぎて個人的にツボ。
後半の展開はそれなりに衝撃的だが、全体を通じて、人に対して優しくあることの大切さが仕事というくくりから、上手に説かれている。
スクラップ・アンド・ビルド/羽田圭介(2015)
テレビで見かけた面白い彼が、作家で、芥川賞も受賞したということで、読んでみた。
結果として、非常に面白かった。
普通だったら笑えないような状況の描写でも、不思議と笑えた。
主人公の筋が通っているようで通っていないようで、ともかくも利己と利他が混じり合った不思議な思考回路が面白かった。祖父への眼差しも、極めて冷静ではありながら、よじれた優しさも感じさせる。
主人公の行動と動機のミスマッチもいちいち面白くてツボにはまった。
自分の意見だと言ってエッセイにでも書けば大炎上するのだろうが、こうやって小説として丹念に描かれればエンターテインメントになってしまう。こういうところが小説の醍醐味だろう。
長崎訛りの祖父の言動は、老人のリアルと言う外ない。
孫には社会的な仮面を外さないが、子には威張る。特に威張れる相手を選んで威張る。独特の方法・タイミングで顕在化する我が儘。本当か嘘か、検証しようのない昔話。
80代後半からの急激な老いには、人間とは何なのか、そもそも人間という設計図の中に想定されていた姿なのかといった疑問を感じさせる何かがある。
弱く醜い肉体と精神を見て、ただ若いというだけの肉体と精神は何を感じるのか。
非常に興味深い題材だと思った。
あと、いろいろと回収されたのか分からない伏線なんかもあって、これも非常に効果的だったと思う。
Amazonのレビューなんかを見ていて、主人公の視線の冷たさを非難するレビューなんかが多かったのは、テレビの羽田さんの言動から、主人公と羽田さんを同一視しているからなのかなと思った。著者の人格に及ぶようなレビューも多くて、作家がテレビに出るのも良し悪しなのだろう。ただ、羽田さんがテレビに出てなかったら、私がこの本を手に取ることもなかっただろうけれど。
フォエバ - BENI(2015)
可愛らしく、元気のある歌である。
ズンズンズン、ズンズンズズンというネオ歌謡曲のようなテンポも心地よい。
君は 誰より 私を知ってる人
と歌われる「君」は誰なのか。
歌い手からの恋愛感情が明示されていない歌詞なので、基本的には友情を歌った曲だと考えていいと思う。
冒頭の「飲めないコーヒーもって」というところから、なんとなくフェミニンな相手なのは伝わる。
PVの雰囲気も勘案すると、同性の友情と解釈するのが、一番自然かもしれないが、
ここは、歌い手からは「男性」として見てもらえない、異性の友だちが想起される。男の方では、多少の恋愛感情があるのだが、面と向かって親友と言われていることから、既存の関係を壊してまで踏み出す気にもなれない。
そんな、ちょっとなよなよした男の子が浮かぶ。
妄想しすぎかもしれないけれど、そんな広がりも感じさせる良い歌詞だ。
公式PVにも書かれているように、家族の絆に置き換えることもできるように巧妙に作られている。
もちろん恋愛感情を読み込んでも良い。
単純で、ちょっとバカっぽいけれど、いい歌詞だと思う。