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スクラップ・アンド・ビルド/羽田圭介(2015)

 

 

 

 

テレビで見かけた面白い彼が、作家で、芥川賞も受賞したということで、読んでみた。

結果として、非常に面白かった。

 

普通だったら笑えないような状況の描写でも、不思議と笑えた。

 

主人公の筋が通っているようで通っていないようで、ともかくも利己と利他が混じり合った不思議な思考回路が面白かった。祖父への眼差しも、極めて冷静ではありながら、よじれた優しさも感じさせる。

主人公の行動と動機のミスマッチもいちいち面白くてツボにはまった。

自分の意見だと言ってエッセイにでも書けば大炎上するのだろうが、こうやって小説として丹念に描かれればエンターテインメントになってしまう。こういうところが小説の醍醐味だろう。

 

長崎訛りの祖父の言動は、老人のリアルと言う外ない。

孫には社会的な仮面を外さないが、子には威張る。特に威張れる相手を選んで威張る。独特の方法・タイミングで顕在化する我が儘。本当か嘘か、検証しようのない昔話。

80代後半からの急激な老いには、人間とは何なのか、そもそも人間という設計図の中に想定されていた姿なのかといった疑問を感じさせる何かがある。

弱く醜い肉体と精神を見て、ただ若いというだけの肉体と精神は何を感じるのか。

非常に興味深い題材だと思った。

 

あと、いろいろと回収されたのか分からない伏線なんかもあって、これも非常に効果的だったと思う。

 

Amazonのレビューなんかを見ていて、主人公の視線の冷たさを非難するレビューなんかが多かったのは、テレビの羽田さんの言動から、主人公と羽田さんを同一視しているからなのかなと思った。著者の人格に及ぶようなレビューも多くて、作家がテレビに出るのも良し悪しなのだろう。ただ、羽田さんがテレビに出てなかったら、私がこの本を手に取ることもなかっただろうけれど。